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2020年、新型コロナウィルスが文字通り、世界を一変させた。

この原稿を書いている6月下旬の今も、うがいや手洗いの励行とともに、ことあるごとに手にシュっと除菌ジェルやスプレーを噴射するのが、新しい常識として定着しつつある。

仕事で訪れた企業の受付でシュッ。

スーパーやファンションビルでシュッ。

その度に私は、2018年12月に訪れたインドの旅を思い出している。

 

フリーランスのライター、コピーライターとして、この22年間、色々な体験をしてきたが、インド取材はこれまでの人生で「最高級の旅」であった。

ガンジス河のリバークルーズ船での7泊8日の旅。

上げ膳、据え膳は当たり前。

日本語を話すハンサムなインド人ガイドのラジャさんが執事のごとく世話をしてくれ、クルーズ船のクルーたちがコーヒーや水のお代わりを継ぎ、ドアを開けてくれる日々。

観光に出かけるときは、ガイドとクルーによる完全警護。

そして、カメラマン桂子と私が“衛生班”と呼んでいた「除菌ジェルと除菌ウエットティッシュを両手に持ったクルー」が常に傍らに待機。乗船客である我々の衛生が危険にさらされた瞬間に、すぐさま傍らにやってきて、笑顔で除菌ジェルをプッシュしてくれるのであった。

 

さすがに初日は戸惑ったが、3日目ぐらいにはちょっとでも衛生の危機に瀕すると「衛生班は? どこ?」と彼を目で追うようにすらなっていた。

生まれたばかりの子ヤギを「ちょっとあんたも、抱っこしてみる?」とインドのおばちゃんに勧められるなど、日印おばさん外交にいそしんでしまいがちな私のことを、衛生班のクルーは要注意人物としてマークしていたようだった。

 

外国人に対してそこまでの衛生管理が必要な国であることを、インド人たちはさほど気にしていなかった。

露店のアイスクリームを目で追っていたら、ガイドのラジャさんに日本語で「買い食いはダメです」と注意された。

立派な中年になったのに「買い食いはダメ」などと、修学旅行生のような注意を外国人から日本語で受けるとは。

人生、何が起こるかわからない。

 

クルーズ船の自室の窓からガンジス河を眺めていると、沐浴をしている人たちが手を振ってくる。

手を振り返しながら、『私が沐浴したら多分、瀕死なんだろうな』と思った。

元気に沐浴している彼らと私との違いは、獲得免疫の違いであろうことは分かっていたが、世界は広いな、とシミジミした。

 

コロナ禍が世界を覆いつくしたとき、このときの旅のメンバーのグループLINEにラジャさんから「ogenkidesuka,watasihagenkidesu」とメッセージが届いた。

私はローマ字で書かれた日本語を黙読できないので「おげんきですか」とひとりで声に出して読んだ。

ラジャさんは私たちの体調を気遣ってくれ、インドでは外出が制限されているので食品の買い出しが不便だけれども元気で暮らしているよ、と書き送ってくれたのだった。

返信はGoogle翻訳で英語にして送る。

大変、便利である。世界は広いが、人の心の距離はとても近くなった。

 

コロナ禍で「これからどうなってしまうのだろう?」という不安にさいなまされている人も増えているという。

私は、というと「仕切り直すチャンス」と感じていた。

じつは、2019年の下半期ごろから、低迷期に突入していた。

消費税の増税の影響もあったのだろう。

手掛けていた案件が、サラサラと指の間から砂がこぼれていくように消えていった。

そこにきてのコロナ禍。

廃業もやむなし、と腹をくくった。

廃業して何をするかも、まったくわからなかったが「こうなったら、なんでもアリだな」と考えていた。

地球規模で危機に直面しているのである。

今の私にできることは、うがいと手洗いの励行と外出の自粛ぐらいだ、と思った。

 

ところが、である。

開き直った直後から、予想外のところから、次々と仕事が舞い込み始めたのだ。

2019年の下半期に、低迷しながらも蒔いていた種がいっせいに芽吹いたような感じであった。

結果、緊急事態宣言の中で、自宅にいるのに毎日、忙しく仕事をしていた。

緊急事態宣言が解除となった今も、ありがたいことに日々、忙しく過ごしている。

 

今年の3月ごろまで、しょぼくれた日々を送っていたのが嘘のようだ。

旅を専門とするライターでもない上に、英検3級の私のところにインドへの取材旅行の依頼が来た時も「人生、何があるか分からないものね」と思ったが、今回も本当に予想外の展開だった。

まあ、私の人生は、だいたいがそんな感じではあるのだけど。

 

今、私は発行部数30万部のフリーペーパーの編集長なのである。

緊急事態宣言のさなかに、オンライン面談で業務委託契約での採用となり、フルリモートで業務を遂行している。

スタートから1か月半ほど経った今も編集部の面々と、一度もリアルに会ったことがない。

しかし、編集長だ。

我ながらいろんな意味ですごいなと思う。

 

「なんでもアリ」と開き直った私であるが、嬉しい方向に「なんでもアリ」という結果になってくれたんだな、とシミジミする。

冷静に考えれば、このコロナ禍は地球上のすべての人に変化することを強制的に課したわけである。

つまり、これまでのセオリーどおりにコトを運べるはずがないのだ。

従来のやり方に固執すればするほど、苦しいのではないか、という気がしている。

 

コロナ禍以前の日常に満足していた人たちや、今と比べると以前の方が良かったと感じる人は「戻りたい」「戻って欲しい」と思うのかも知れない。

私は半年以上、低迷期を過ごしていた上に、仕事で不愉快な人間関係に振り回されていたこともあって、戻りたいとは思わない派だ。

とはいえ、「戻そう」と思う人たちが頑張ることも大切だし、新しい時代を作っていこうとする力もまた、必要なのだと思う。

愚痴ったり、不満を言ったり、社会や政治や誰かに怒りを向けたりせずに、自分自身が前進することに集中してエネルギーを注げるかを、今、問われているように感じる。

 

私たちがインドを訪れた時、ガンジス河はカフェオレ色で、空は霞んでいた。

それがインドなのだと思っていた。

ところがコロナ禍での外出自粛により、ガンジス河は清流のような透明度を取り戻し、大気汚染が晴れて30年ぶりにヒマラヤ山脈を見渡すことができたことを、ネットニュースで知った。

 

コロナ禍によって起きた変化は、悪いことばかりではない。

これは地球上のすべての人に与えられた機会であり、チャンスも潜んでいる。

それを活かすも殺すも自分の在り方次第、ということを私は身をもって体験した。

だから、たくさんの人におすすめしたいのだ。

クヨクヨ、モヤモヤするのではなく「なんでもアリ」と開き直ってしまおうよ、ということを。

text - Takako Kurihara

photographs -  Keiko Oda

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writer / Kimono evangelist

栗原貴子

Takako Kurihara

フリーランス歴22年目。きもの歴は25年以上。紙・WEBメディア、SPツールの企画・構成、取材・インタビュー、ライティングを手掛けている。2020年6月よりホームセンターマガジン『Pacoma』編集長をつとめている。

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