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PEOPLE

STAY SALTY ...... people here

還る。

The importance and love of seeing, listening, and feeling

6.1 2020

5月のある日、自転車で

あれはゴールデンウィーク明けすぐだったかな。

緊急事態宣言が出てから1ヶ月、ずっと家と徒歩2分のところにある事務所を静かに往復する毎日を続けていた。

おまけにアレルギー性鼻炎のようなものにかかってしまい、咳が止まらず体調もずっと低空飛行で不安を何重にも纏ったような日々が続いていた。

家で過ごす時間が長くなってまず気づいたのは床の汚れ。

3年前にプロの大工さんが講師になって、姉や友人とDIYで自宅のリビングの床を一新したのだが、そのまま何の手入れもせず放置して薄汚れていたのだ。

綺麗にするなら今しかないと一念発起して床の汚れを拭い、そこへオイルを刷り込み、乾かしてまた刷り込むという工程を丸四日間ストイックに続けていた。母以外、誰にも会っていなかった。

そんなある日、義理の兄が自転車を貸してくれた。

「公園で待ち合わせしようよ!きっと気持ちいいよ」という姉の誘いに恐る恐る乗って、兄の電動自転車を借りて恵比寿から中目黒公園までひとっ走り。

5月の光が気持ちよくて、心地よい風を感じながら新緑まばゆい公園についた時、突然自分の輪郭がふわっと広がったような感覚になった。

木々や土の匂い、風の感触、光の移ろい。

あ、私ここんとこずっと、閉じてたな。狭いところにいたな。

自粛生活の中でもそれなりにアクティブに生きているつもりでいたけれど、完全に縮こまっていた。

は〜。なんて気持ちいいんだろう〜!

自転車ありがとう! 公園ありがとう! 5月最高! って思った。

おまけに2ヶ月ぶりに姪っ子にも会えて(ソーシャルディスタンスしながらね)、ちょっと泣きそうになった。

半分閉じていた瞼がパチッと開いて、久々に深呼吸。

 

先週見たNHKの「日曜美術館」で、95歳になる染色作家の柚木沙弥郎さんが

「閉じてしまわないで。心持ちを開いて」とおっしゃっていた。

柚木沙弥郎さんはご高齢の不自由な体を精一杯使って、「いのちの樹」という自分の背丈よりも大きい新作の下絵描きに取り組んでいた。モノクロの右に左に伸びる枝、太い幹の形。なんと力強い絵なんだろう。生命力溢れる形に、画面越しにもハッとした。なんか自分の、この小さく閉じた状態が恥ずかしくなってしまった。

そうか。そうなんだ。閉じちゃダメなんだって。

どんな時も、心持ちを開け!って。

この言葉を忘れちゃダメだと思って、近くにあった紙に急いで「心持ちをひらく」って書いた。

それだ。

planner / producer  新谷佐知子

Sachiko Shintani

見て、聞いて、感じることの

大切さと愛しさを

ここでちょっと自己紹介させてください。

私は、いろんなジャンルのアーティストと一緒に物作りをしたり、ワークショップや展示の企画をする仕事をしています。いつもうまく説明できないんですが、その全部をひっくるめて「アートマネージメント」って呼んでいます。

この自粛期間中、時間だけはたっぷりありましたよね。

世界が一時停止ボタンを押されている前代未聞な状況下で、「自分がやりたいことってなんだろう、大事にしたいことって?」と自問する時間を過ごしていたような気がします。

これから世界がどう変わったとしても、大事にしたいことはなんなんだい、さちこよ。

それが私への問いかけでした。

それで、ここにきてなるほどなあと見えてきた。

自転車で公園に行った時の、ひとまわりもふた周りも自分自身が広がる感覚や、染色作家の柚木沙弥郎さんが描いていた「いのちの樹」。

大事なのは、「心持ちをひらく」というようなこと。

 

五感をひらく場を作りたい

思えば、私はずっと前から感覚をひらくことに興味を持っていたなあと思います。

2年前、岡山県にある奈義町現代美術館で子どもたちのためのアートの1日を企画しました。

その名も「なぎこどもアートデイ」。

奈義町現代美術館は作品と建物とが半永久的に一体化した美術館です。太陽、月、大地と名付けられた3つの展示室から構成された、日本でも珍しい「体感型の美術館」と言ってもいいかもしれません。

「なぎこどもアートデイ」は、この美術館で現代美術家や作曲家、装丁家やパフォーマーが子どもたちに向けて五感を使って楽しむワークショップを開催するというものでした。

現代美術家のシェリンさんは「ふしぎティーパーティー」というワークショップを開催。

参加した子どもたちと一緒に青いケーキを作って食べるプログラムで、見た目と味のズレの面白さに触れてもらう企画でした。これは子どもたちにとって新鮮な体験だったようです。

装丁家でアーティストの矢萩多聞さんは、美術館の常設作品「月」と「太陽」を体験した後に大きな絵を描くというワークショップを開きました。なだらかな坂になった芝生の上で自分の体よりも大きな絵を描く。身体全体を使って、表現する時間です。

作曲家の宮内靖乃さんのワークショップは、「月」の作品空間で子どもたちの声の響きを使って「月夜の森」を奏でるというものでした。子どもたちは、どのワークショップも楽しそうに生き生きと過ごしていました。

身体の感覚をぜんぶ使って、自由に作り、奏で、感じる時間になっていたらいいなあと思います。

 

五感つながりでもう一つ。

2013年に恵比寿ガーデンプレイスで行われた展示で、「香りの温室」という作品です。

香りの温室

アロマセラピストの和田文緒さんを中心に、デザイナー、作家、音楽家が集って香りの森のような場所を作りました。訪れた人は、様々な植物の香りを思い思いに体験します。

小さな家の形をした蚊帳のような中に入ると、5つの薬瓶や小瓶が並んでいます。

そこにはタイトルと詩が添えてあって、その詩から想起された5つの香りを体験できるようになっているというものでした。

一つの瓶からは、音も聴くことができました。「雨上がりの光の梯子」という瓶です。

体験した人からは、「忘れていた古い記憶を思い出しました」とか「温かい色が見えた」とかいろんな感想がありました。

普段は眠っているその人独自の記憶や感覚を呼び起こすような、香りと言葉、音で感じる作品です。

****

 

作品と出会う、山小屋という二坪だけのギャラリー

最後にもう一つ。

家族で運営している小さなギャラリーを紹介させてください。

その名も「山小屋」というのですが、恵比寿の街で、いや多分東京で一番小さなギャラリーだと思います。

訪れる人がちょっと一休みする峠の茶屋のような存在になりたくて、そんな名前をつけました。

2012年にオープンして、もう8年目になります。

有名無名問わず、私たちがいいなあと思うアーティストの作品をここで発信しています。

山小屋企画展「Strawberry Fields Yusuke Sato」

「山小屋」で展示を企画していてよく立ち会うのが、初めて作品を買うというシーンです。

普段展示を見ることがあんまりないという人も、作品やアーティストと出会って、話して、山小屋で過ごすことで、何かが変わる。

作品の世界観に触れることで、作品と一緒に暮らしてみたいと思うんだと思います。

私はこの「初めて作品を買う」という行為は、その人の中にある新しい扉を開けることなんじゃないかなと思っています。

作品は、ただ美術館やギャラリーで眺めるだけの存在じゃなくて、その人の家のリビングや寝室で、一緒に暮らす存在にもなり得るということ。

そう気付いた時、「作品を遠くで見る」から、「作品と暮らしながら見る」へ劇的に変わる瞬間が訪れる。作品は、見る人がいて初めて息づくものなのです。

見る人は、作品から日々何かを受け取る。

それは想像力というものなのかもしれないし、自分の中の創造性にスイッチを入れることなのかもしれません。

面白いのは、四季折々、自分がどんな精神状態か、例えば疲れているのか、心身ともに充実しているのかで作品から受け取る印象も変わります。

半年間ずっと壁にかけていて、毎日目にしていたとしても、ある日突然、作品の中に潜んでいた小さな窓や鳥のモチーフに気づいてハッとするなんていうことも。

なぜ今まで気づかなかったんだろう、そうか!…と、同じ作品がある日を境に違って見えることもあります。

作品は、その人の毎日にそっと寄り添い、時にエネルギーを送ってくれて、時に心を鎮めてもくれるのです。

そう、作品は、その人の心を動かして、日々の暮らしに新しい風を吹かせてくれる存在。

一度開けたら、ワクワクして仕方ない。

作品を買うとは、そういうことなんだと思います。

その人の感性の扉をひらいてくれる。

作品との応答を楽しむこと。

山小屋が、そんな扉を開けるきっかけを作れているなら、これ以上嬉しいことはありません。

 

見て、聞いて、感じることの大切さと愛しさを

コロナがいつ終息するのかは、誰にもわかりませんよね。

これからまだ2年か3年か、コロナありきの世界でなんとか工夫しながら生きて行くしかないのかも。

これから先、オンラインでの勉強会やワークショップ、オンライン個展や音楽祭なんかもまだまだ増えていくかもしれない。

私がこれまで企画して来たことは全て、その場に集まって、見て、聞いて、感じてこそできる体験でした。

集うこと、同じ空間で体験することが難しくなった中でも、なんとか、この見て聞いて触れて感じることで生まれる感覚を大事にして行きたいと思うんです。

それは遠く離れた人にアート作品を届けることかもしれないし、自宅で香りや音や物語を体験してもらう仕掛け作りなのかもしれない。

世界がどんな風に変わったとしても、届け方を試行錯誤しながらでも、大事なことは変わらない。

あなたはそこにいて、私はここにいる。

今日も明日も、心持ちを開いて、新鮮な風を取り込んで、お互いのいのちの木があっちにもこっちにも自由に伸びてくれるように、やってみるしかない、そう思います。

 

(と言いつつ、早く山小屋でぎゅうぎゅうになって乾杯できる日が戻りますように!と心から願いつつ!)

text - Sachiko Shintani

photographs - Nagi Kodomo Art Day:Katsuhiro Ichikawa
                        Kaori no Onshitsu:Jun Sanbonmatsu
                        Strawberry Fields Exhibition:Yusuke Sato

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みんなの声で「月夜の森」をつむいでみよう
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photograph by Mioko Takano

planner / producer

新谷佐知子

Sachiko Shintani

1976年生まれ。1999年東京造形大学卒業後、2000年にMOVE Art Managementを創業。展覧会やイベント、グラフィックなどの企画・プロデュースを行う。2012年、東京・恵比寿にgallery and shop 山小屋をオープンし、様々な展示を企画。五感、記憶、劇場をテーマした体験型、参加型の作品制作を行う。

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アート・マネージメント『MOVE Art Management』

「心が動く」をキーワードに、デザイナーや写真家、映像作家に音楽家など様々なジャンルのクリエイターとともに、デザインや編集のディレクション、

展覧会やワークショップの企画を行うアートマネジメントの会社です。

<主なプロジェクト>
2010年   Paris 59 Rivoli 企画展「夜の庭」キュレーション
2011年〜  「恵比寿文化祭」メインビジュアル制作
2012年〜  「gallery and shop 山小屋」企画、運営
2013年   「香りの温室」展示企画
2014年     「渋谷ズンチャカ!」のネーミング及びコンセプト、メインビジュアル制作
2015年          恵比寿文化祭「舞台の上のティーパーティー」企画
2018年     奈義町現代美術館「なぎこどもアートデイ」企画

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作品と暮らす風景

ギャラリー『gallery and shop 山小屋』

東京・恵比寿駅からほど近くにある、ちいさな、ちいさなお店です。
扱う作品は時期によって色々ですが、日々の暮らしにふわりと風を吹かせてくれるアート作品や器、本や香りの品々です。
忙しい恵比寿の交差点に「山小屋」という名前は少し不思議ですが、ぶらり訪れて知らない方同士が偶然に出会ったり、素敵な風景を一緒に見たりできたら、という気持ちで名づけました。


*現在は、コロナ情勢に伴う移動自粛要請などの事情で

 一次休業となっております。

 年に4〜5本の山小屋による企画展と、それ以外の空いている期間は、

 作家さんへスペースの貸し出しも行っています。詳細は下記へ。
 


山小屋が企画制作したアートブックや、アーティストのグッズを販売しています。詳細は以下へ。

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Yusuke Sato  strawberry fields
Do not hesitate to contact me to discuss a possible project or learn more about my work.

© 2020 by ALOHADESIGN

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