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どちらもおいしい、

アナログ旅と

デジタル旅

Both delicious, analog journey and digital journey

初めて一人で海外に出たのは、1995年。20歳の時だった。

開港して間もない関西国際空港から、シンガポール経由でロンドンに向かう便。

その目的はイギリスの語学学校に通って英語を身につけることだったため、純度100%の遊び目的ではなかった。

それでもわたしにとっては初めての海外渡航で、しかも単独、通学という条件も重なっていたため、決してお気楽なものではなかった。

時代背景。

今のようにネットで航空券が買える時代でもなかったし、携帯電話を利用していたのはごく一部の人だけだった。

その代わりにわたしがその初めての海外に持っていったのは、「地球の歩き方」という定番ガイドブックと、ヨーロッパの鉄道時刻表を網羅した「Thomas Cook」という2冊の本。

旅のお供というにはそれらはあまりにも分厚く、持ち運びにくく、重かった。

事前に情報を得る手段は、本の中の文字にしかなかったのだ。

そんな時代の話。

航空券は旅行代理店に足を運び、直接その場で現金購入した。

そこに至るまでの情報源は、リクルート社が発行していた情報誌。

そのためのお金は、必死にバイトで貯めた。
当時わたしは水も弾くような20歳の女子大生だったが、興味の方向はほぼ旅に限定されていた。

それくらいの女の子と言えば、恋やファッションやメイクに全神経を注ぐくらいの勢いがあるものだ。

ところがわたしが当時着ていたものと言えば、ビブレで買った千円そこらの服だったし、メイクも適当。

本来ならそんな分野に注ぎ込まれるはずの20歳女子が働いた理由は、旅の軍資金目的でしかなかった。

華も色もあったもんじゃない。

わたしの主要な渡航目的はイギリスの語学学校への通学であったが、旅程はそれだけでは済まなかった。

学校のカリキュラムを修了した後は、フランスに渡ってドイツにまで足を運ぶという目論見を立てていたからだ。


その理由も実に、貧しい若者らしかった。

イギリス単純往復なんて勿体ない。

どうせヨーロッパに渡るのなら、もっといろんな場所に行ってやる。

そう思ってのことだった。

重たい鉄道時刻表を用意したのは、その移動を考慮したからだ。

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結果わたしは、イギリス、フランス、ドイツの三カ国を訪れる計画を立てた。
今でもその時の記憶を呼び起こすたび、若気の至りと無謀さにふっと口角が上がる。

ロンドンIN、パリOUTのオープンジョー。しかも乗り継ぎ要の航空券。

それは複数枚綴りの、薄っぺらなカーボン紙だった。

現金をそのまま持ち運ぶと盗難の危険性があったため、旅行者用小切手(トラベラーズチェック)に替えて持っていった。

これらを紛失することに対しては、道中いつも緊張感があった。

持っていた紙の類はだいたい必需品に相当していたし、風で飛んでいくようなペラペラカーボン紙の航空券は、パスポートに並ぶ貴重品だった。

 

あれから25年。
重たいガイドブックは不要に。

現地情報や地図、分厚い時刻表はすべてアプリに。

トラベラーズチェックは世界から消え、決済のほとんどはカードに。

クリックのみで予約決済されるヴァーチャル航空券。

スマホだけですべて完了する搭乗手続き。

かつて大事に持ち歩いていた航空券は、濡れもしなければ破れもしなくなった。

これだけのシステムが、25年どころか15年そこらで完成してしまったのだ。

それでもわたしが幸運に思っていることは、アナログからデジタルへと紡がれていった旅スタイルの変遷とその違いを、この身で体験できたことだ。
何度も見開いたために破れかけた地図を広げながら、知らない外国人に指差しで道を尋ね、それでも道に迷っては幾度も絶望した。

紛失や盗難が怖くて、シャワーに行くにも航空券を所持していった。

自分の足で歩き回って、勘だけを頼りに泊まる宿を決めた。

時刻表Thomas Cookを捲っては鉄道の乗り継ぎ時間を調べ、ペンでチェックを入れた。

不特定多数が発信する溢れんばかりの情報がなかったために、自分の五感と見聞をよく頼りにした。

20歳からそんな旅を2年ほど続けた後は、世間一般的に就職・結婚・育児の到来。

それらはわたしの旅への触手を、見事15年ほども制した。

自分と子供と仕事のことしか頭になかったその15年の間に、かつての旅のスタイルは消滅してしまっていた。

そこから海外一人旅を再開したのは2013年。

わたしが知っていたあの頃の旅は、少なくとも日本では手に入らなくなっていた。

新たなるデジタルなトラベルを実際に経験してみて、驚きとテクノロジーの進化に対する感謝は勿論あったが、失われたものに対する一抹の寂しさも否めなかった。

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わたしたちはもう、そう簡単に道に迷えなくなった。
自分だけの秘密だと思っていた場所は、既にネットで発見されている。
わたしたちはもう、パスポートとカードとスマホだけで海外に飛べる。
話題の最新スポットも、口コミで人気の宿も、瞬時に知ることができる。

あの時代のアナログな旅も、今の時代のデジタルな旅も、どちらも旅であることに変わりはない。

それでも時々思い出してはこう思う。

あのもどかしさと不便さを、あの歳で経験できて良かったと。

 

二十歳。

早すぎず、遅すぎずのいい塩梅だ。

 

だけど40代となったわたしが今再び、あのアナログ旅をやれと言われたらどうだ?  やれる自信はあるか?  ふっと失笑してしまう。
だからわたしはそう、やっぱり幸運だったのだ。

photographs and text - Beni Yoshiwara

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Illustrator / writer / traveler

吉原 紅

Beni Yoshiwara

1975年生まれ。求人広告代理店勤務を経て、フリーランスのグラフィックデザイナーに。

20歳の時に海外一人旅に目覚め、そこからバックパッカーとして数ヵ国を旅しました。

現在はイラストを描いたり文章を書いたりしながら、40代での世界一周を夢見ています。

絵と文章の他は、写真とお洒落も好き。日々の生活の中にある美をいつも探しています。

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