ON THE WAY

STAY SALTY ...... travelers on the way

4.1 2021

photographer / writer / traveler   Kaori Kawamura

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旅に出て、何者でもない自分でいる

Go on a journey and be yourself

どこで読んだのかまったく思い出せないのだけれど、たとえばシチリア島の端の、それこそ対岸はアフリカというような場所まで行って突然、「本当に遠くまで来てしまった」と、ぽつんと一人で立って全身で実感する、というエッセイがあった。

その情景を想像して、自分もその感覚に共鳴してしまったことがある。

 

言葉もたいしてわからない異国では、どこの出身で、どこの学校を出て、どこの会社でどんな仕事をしているといったラベルみたいなものはいっさい通じない。

そこには自分自身しかいないという、頼りないような、心細いような、なんとも自由な状態。

 

何者かにならなければいけないような気がする日本を脱出して、旅の一日一日を目の前のことに集中し、ただ生きているのが心地よかったのかもしれないと、昔の旅を振り返ってみて思う。

 

聖堂の中でぼーっと座っていたり、風にのってくる教会の鐘の音を聴いたり、500年前の建物の中で好きな絵だけを眺めていたりと、そういうときが、自分を何かの枠にはめることなく、自分自身と一致できる時間で、それはまさに「今、ここ」を生きることだった。

 

 

1988年春。

大学でヨーロッパ史を学んで数年後、初めての海外旅行でヨーロッパへ行った。

イギリス、スイス、ドイツ、イタリア、スペイン、フランスの6か国を訪ねる1ヶ月の旅。

「地球の歩き方」と「トーマスクックの時刻表」、ユーレイルパスとオープンチケットの航空券を手に、元同僚である友人と2人、完全フリーの旅だった。

 

友人はツアーで香港に行ったことがあるだけで、二人ともたいして英語ができるわけではない。

それでもあえてフリーで行くことを選んだのは、その前年に先輩女性が格安航空券でヨーロッパを一人で旅した話を聞いたからかもしれない。

 

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子供のころから英語に接する機会があり、アメリカ人と文通をしたこともあったが、まだ日本人が気軽に海外に出ていくことは少ない時代。

ツアーの代金はとても高かったので、外国の写真を見ながら、果たして自分もいつか行くことができるのだろうか、と思っていた。

 

だから、南回りのシンガポール航空の、延々とたどり着かない空路を経て、ヒースロー空港から乗った電車の窓からロンドンの街並みを見たとき、本当にここはイギリスなのかと、半ば夢のような不思議な感覚だったのを覚えている。

と同時に、これから1ヶ月、友人と2人でやっていけるのかと急に心細くもなった。

今のようにインターネットは無いし、海外を旅する番組も多くはなかったが、「地球の歩き方」を片手にもつ日本人バックパッカーは増えていた。

「地球の歩き方」を持っている=日本人、と知られるようになってきて、道端でこのガイドブックを開くと狙われやすいから気をつけろと言われていた。

 

 

 

どういうルートで国や町を回るか、最初に大まかに決めたものの、トーマスクックの時刻表を見ながら、乗り換え駅や、乗り換え時間は大丈夫かなど、その都度調べる。

行く方向が決まらなくて、ミュンヘン駅構内で「どっちの国に行こうか」と迷ったこともあったが、あとから思うと贅沢な話だ。

夜行にも何度か乗って、寝台ではなく普通のコンパートメントの椅子を引き出してベッドにし、ドアのカーテンを閉めて寝たこともあった(夜中に乗ってきた人がドアを開けるので落ち着かなかったが)。

 

新しい町に着いたらインフォメーションで宿を紹介してもらうか、「歩き方」を見て安ホテルに電話して予約する。

なかなか決まらないと不安になるが、決まったらホっとして急に元気になり、町歩きを始められた。

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緊張や不安も多い反面、楽しい出会いや偶然もある。

同じようにフリーで旅する日本人と列車の中で出会えば、あの国のあの街はどうだったとか、あそこの美術館には誰それの絵があるとか、いろいろ情報交換をして、そのまま一緒にペンションに泊まったこともあった。

スイスでホテルへの道に迷っていたら、駐在されている日本人のご家族に声をかけられ、お宅へお茶に呼ばれたこともある。

 

ユーロはまだ先のことで、国ごとに通過が違うから、いくら両替していかにうまく使い切るか、頭を使わないといけなかった。

情報は、頑張ってカタコトの外国語で人に聞いたり、足を使って取りに行くしかない。

大変なことも多かったが、それらの面倒なすべてが身に染み込んで、宝物のような体験になった。

この最初の旅がきっかけとなり、しばらくしてイタリア語の勉強を始め、その後は一人でイタリアをメインに出かけるようになった。

初めてのイタリア一人旅は、複数のペンフレンドを訪ねる旅で、また別の緊張やさまざまな体験をする。

そうしてすこしづつ外国にいることに慣れていくと、あの「何者でもない感覚」も薄れてくる。

 

最後に国際線に乗ったのは2003年12月のオーストリア行き。

それ以来、海外には行っていない。

2020年の10月に19年ぶりにイタリアとパリに行く予定だったが、それも無くなった。

 

外国に行かない間、私は地に足をつけた”ちゃんとした社会人”になろうとしていた。

 

けれども年月を重ねた今、自分の本質から目をそらせて社会の枠組みの中にうまく自分を合わせることが、地に足をつけることではないと分かっている。

大切なのは、肩書きやキャリアといったラベルを取り払って、どこか遠くの土地に一人で立った時にも、無条件で自分は存在に値する人間だと笑って思えることだった。

 

それでも社会の中にいると時々、外側を意識してラベルを貼ろうとする自分がいる。

だからまた飛行機に乗って遠いところへ行き、風に運ばれてくる教会の鐘の音をぼんやり聞きたいなぁと思う。

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photographs and text - Kaori Kawamura

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photographer / writer / traveler

川村香緒里

子供のころからずっと、絵(漫画)を描いたり文章を書いたり写真を撮ったりしながら、

いつもなにかを発信してきました。

それが誰かの視点や気持ちを変えるスイッチになったらいい、と思いつつ、

これからも言葉と絵や写真で表現していけたらと思っています。

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