


重田 玲
ライター/編集者
1985年生まれ、山口県光市出身。
日本ジャーナリスト専門学校卒。
編集プロダクション、ボクシング雑誌(フリーランス)、出版プロデュース会社を経て、
現在は株式会社西北社にてライター・編集者として活動。

5.5.2022
DAYS / Rei Shigeta Column
続・それでも世界は美しい。
おじさんの蹴りから学ぶ、社会の見方。

あれは、私のせいなのか?
2021年の初め、1月が10日くらい過ぎた頃のこと。
晴れた気持ちの良い朝、息子(当時4歳・やんちゃ)を自転車の後ろに乗せて、川沿いの道を鼻歌交じりで走っていました。
フンフンいいながら、保育園遅刻する~とか、今日のお昼ごはん何かなぁ~とか、そんなたわいもない話をしていたような気がします。
すると前方に、50代くらいかな?
鮮やかなオレンジのダウンを着たおじさんが歩いているのが見えました。
進行方向は同じ。
チラッと振り向いたおじさんは、私たちの存在に気づいて、ちょっと道を譲ってくれました(ように見えました)。
あら、ありがたや。
この川沿いの道、狭いしなぁ。
と思っておじさんの横を通り過ぎようとした瞬間、自転車の後輪に蹴りをくらいました。
え、え、えー!!
…私は軽くパニック。
(でもコケなかった自分を最大級に褒めたい。ナイス体幹、ナイスバランス感覚)
「ええええどういうこと!?」と鬼の形相(いや泣き出しそうな顔です)で振り向いておじさんの顔を見たら、もう一発蹴らんとばかりの姿勢(サッカーのフリーキック前みたいな)だったので、ひぃ~なんかよくわからんけどもうとりあえず逃げます~ということで自転車を飛ばし、怖すぎてすぐさま近くの交番に駆け込みました。
が、まぁ特に怪我もしてないし、であれば被害届を出すほどでもないよねという空気でもあって、「パトロール強化しますね」という若い警察官の言葉に、混乱した頭と心をとりあえず納得させました。
異常に跳ね上がっていた自分の心臓の音が忘れられません。
すんごいバイブスでした…(いやバイブスの使い方)。

私には見えない理由がある、のかもしれない。
その後しばらく、2週間くらいは、そのオレンジのダウンのおじさんに怒りと恐怖を感じていました。
というかなぜ蹴った?
私なんか悪いことした?
なんであんな怖いことする人が野放しなんやろ…。
ていうかはよ警察に捕まれ!何普通に生活しとるんじゃ!
捕まらないならせめて家から出るな。
やっぱり治安悪いんかな~東京って~。
あぁ、明るい道を歩くのすら怖いなぁーこんな不安に思ってしまう毎日嫌やなー。
というかなんであんなおじさんのこと気にして生きなきゃいけないの?私の頭と心のキャパシティを返せ!
でも、ひととおりおじさんを悪者にして(いや実際悪いよね)文句言って責め立てて、あとちょびっと(ほんとにちょびっとだよ)トークのネタにして人に語りまくって…すると時計の針が一周回ったような感覚になって、ふと思ったんです。
ほんとにあのおじさんだけが悪いんかなぁ、と。

怖いものに蓋。をしたらいけない場合も、あるかもしれない。
そんな折に、一冊の本を読みました。
著者は、児童精神科医。
罪を犯して少年院にいる少年の中には、認知能力が弱く、罪を反省する以前にそもそも世界を、社会を正しく(という表現が適切かわかりませんが)認知できていない子がいるということ。また、そうした少年たちの多くが、認知能力が弱いという事実に気づかず・気づかれず、とても生きづらい世界を生きる中で、犯罪を犯してしまうということ。そしてそれは、幼児期の教育によって防ぐことができるということ…などが書かれていました。
(上記認識が違っていたらごめんなさい、ぜひ本を読んでください)
別に、あのおじさんが「認知能力が弱くて犯罪を犯す人」だと言うわけではないです。
いや確かめようもないし、もし仮にそうだったとして、だからって許すつもりはないです。
何をしてもいいわけじゃない。
息子がケガでもしていようもんなら、人を寄せつけない野良猫、いや飢餓と怒り(の感情があるのか知らんが)のダブルパンチで襲いかかってくる猛禽類さながら、私は相手の人をガッチガチに追い詰めたと思う。
マジでほんとにボコボコにしてたと思う。
(実際、それができる力は持ってると思う)
けど、それでボコボコにやっつけて、警察に捕まえてもらって、はい万事解決!って、それで終わっていいのかなぁと思ったわけです。
おじさんが私の自転車の後輪を蹴る、その前に。
止める手立てが何か、あったんじゃないかなって。

怒れる母は「俯瞰」を覚えた。
(上記小見出し、ぜひドラクエのレベルアップの効果音つけて読んでね)
さて、故意かどうかにかかわらず、誰かを傷つけてしまう、誰かに恐怖を与えてしまう、社会にはそんな人がいるものです。
そういう人って、怖いよね、あんまり近寄りたくないよね、傷つくのは嫌だし怖い思いもしたくない、だから排除してしまおう、見なかったことにしよう…。
じゃない社会であるほうが、いいんじゃなかろうかなと。
反射的に湧き上がる怒りや嫌悪は、きっと抑えられない。
けど、そのあと立ち止まって、グッと俯瞰して、猛禽類(まだ言うか)さながら空高く舞い上がり、そこから自分や、社会を見つめてみる。
そうして、どうしてこんなことが起きたのかな?と考えてみる。
さらに、この社会で自分や家族や大切な人が心地よく暮らせるために、自分にできることはなんだろう?って、考えて、行動するのが、社会を構成する一人である、っていうことなんじゃなかろうかなって。
(だからといってこのおじさん事件に関して何か行動を起こしたわけじゃないです…すみません…でも社会を俯瞰してみるようにはなった気がする…人間としてのレベルアップだと思いたい)
この連載?のタイトル。
めちゃ悩んだのですが(ええひとえにセンスがないからですね)、「続・それでも世界は美しい。」としました。
某名作少女漫画と同じでしょっていうツッコミは受け付けません(椎名橙先生、そしてファンの方、もし検索でここまでたどり着いたならごめんなさい)。
まぁ人生いろいろありますが、それでも世界は美しいなぁと、思って生きていける私でありたいなと、思っているからです。
いきなり蹴りつけてくるおじさん。
怖いよね。
なんで私と息子がって、今でも思ってます。
もし大怪我でもしてたら、もしもし死んでるなんてことがあったなら、こんな綺麗事口が裂けても言えないと思う。
でも、できるならば「それでも世界は美しい」と、そう思える生き方をしていきたいなぁーと思う、今日このごろなのです。