


小林里純
エッセイスト
長野県出身のエッセイスト。2児の母。安曇野市の一棟貸し「Rinrei terrace」をプロデュース。

12.10.2025
DAYS / Rizumu Kobayashi Column
変わったこと、変わっていくこと
歩いて行けないコンビニ

「大人になったら、歩いて3分の場所にコンビニがあるところに住みたい」と思っていた。
眠れない夜にもふらりと立ち寄れるコンビニ。どんなに遅い時間でもやっているなんて、夢のようだ。あの安っぽい白い光を浴びているだけで安心できるし、パジャマやサンダルで受け入れてくれそうな寛容さもすばらしい。
けれど、高校生の私は長野の辺鄙な田舎に住んでいて、歩いて行ける距離にコンビニなんてなかった。コンビニに行くには車が必要で、免許をとれる年齢ではない子どもにとって、コンビニはとても遠い存在だった。だから「早くこんなところを出て、コンビニの近くに住むんだ」と思っていた。
月日は流れ、夢は叶った。私は今、歩いて3分でコンビニに行ける場所に住んでいる。コンビニが近くにある生活はとても便利だ。家にプリンタがなくてもコンビニに行けば印刷ができるし、メルカリで購入してもらった本もコンビニで簡単に発送できる。思い立ってアイスやグミを買いに行くことだって、小腹がすいたからとホットスナックを選ぶことだってできてしまう。コンビニが近くにあることの自由。大人になることの自由。

その快適さにすっかり慣れた最近になって、長野に住んでいた頃のコンビニを思い出す。
子どもだった私にとって、コンビニは親と行くものだった。
夕食後、甘いものが食べたくなると「アイス食べたくない?」と提案する。そしてわざわざコンビニにアイスを買いに行くために、父は車を出す。街灯もない真っ暗な田舎道をドライブする。
父と私のふたりでコンビニに行くときは、たいてい大声で歌をうたった。ドリカムの曲だったり、山口百恵だったり、その日によって色々で、そもそも曲を知らない父は私に合わせてめちゃくちゃな言葉で叫ぶようにして歌う。音痴だった。
コンビニに着くと、ふたりとも嘘みたいにおとなしくなって、ただのアイスを買う客になる。店員からビニール袋に入った家族の人数分のアイスを受け取り、私も父もいそいそと車へ戻る。
私は助手席に座り、膝の上に乗せる。きっと帰ったら母がコーヒーを淹れているだろう。面倒くさがりながらも暗黙のルールとしてみんなでアイスを一口ずつ交換するのだろうことを思いながら、また父といっしょに大声で歌をうたう。
歩いて行けないコンビニが当たり前だった。その当たり前は、気づかないうちに変わっていく。


信州安曇野一棟貸し「Rinrei terrace」

信州安曇野に佇むシングルルーム6部屋を備えた一棟貸切
各部屋ベッド・トイレ・シャワー付き
仲間との気兼ねない旅の間
一人一部屋のプライベート空間でゆったりと


























